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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「ちょっと諸君にきくが」島さんが急に、あらたまった調子で云った、「諸君は米屋からただで米を略奪したことがあるかね」
「借り倒しなら」と寒藤先生が答えた、「僕はその道の達人だ」
「いやそうじゃない、借りるんじゃなく略奪するんだ、それも正々堂々とさ、どうだい諸君」
誰も返辞をせず、好奇心をおこすようすさえなかった。この「街」の住人たちはひっくるめて、うまい話、というものを信じない。かれらはうまい話にとびついたため、これまでに幾たびとなく裏切られた覚えがある。かれらにとって、この世にうまい話があるなどとは、とうてい信じられなくなっていたのだ。
「それなら教えよう」
と島さんは云った。
まず鉄の釜の内部を水で濡らしてから、知らない米屋へゆき、米を二キロ計って入れさせる。二キロ以上でも以下でもいけない、というわけは心理学の応用問題だから略すが、二キロの米が釜の中に計り入れられたら、これを貸してもらえないかと問いかける。知らない顔だからたいてい断わるだろう、断わられたら残念そうに、ではまたこの次にしよう、と云って釜の中の米をあけて返す。釜の内部は濡れているから、米粒のおよそ一と側は貼り付いて残る。