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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
おるいさんはつまりその日にゆき、五日分の物資をまとめて買うのだが、そうすると三割引きがさらに一割がた値引きされるので、ときにより品物によっては、半値を割る場合さえ珍しくはなかった。
「電車賃と暇を計算すれば、却って高くつくっていう人もありますよ、ええ」とおるいさんはいう、「それも嘘じゃありませんけれどもねえ、一日じゅううちにばかりいては躯のためにもよくないでしょう、五日に一度ぐらい外へ出て、世間を見たり運動するのはそれだけでも身のくすりだと思うんです、おまけに安い物が手にはいるんですからね、――うちのような貧乏世帯では貧乏人相応の知恵をはたらかせなければやっていけませんよ」
漬け物などを多量に買うときには娘を伴れてゆき、分割して背負うのだが、それでも市電の乗車を拒絶されることがある、そういうときには母子であるいて帰るよりほかなく、もともと痩せて細っこい躯の娘たちは、まっ蒼な顔にあぶら汗を流しているというふうであった。
買ってきた食品は徹底的に使った。大根の葉はいうまでもなく、人蔘の葉から尻尾、ジャガ薯の皮や、芹、三つ葉の根、蕗の葉まで捨てることはなかった。