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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
ボディーを手で叩き、跼んで、ボディーの下の車軸や、エンジンの連結部を眺めたりするのだ。
「しゃあねえな」六ちゃんは頭を振って呟く、「整備のやつ、なにょうしてるんだ、なっちゃねえじゃねえかな」
彼はドライバーを使ってどこかを直し、ペンチを使ってどこかを直し、軸受のところを足で蹴ってみる。もういちど蹴ってみて、首をかしげて舌打ちをし、さも不満そうに舌打ちをする。
「もうこいつも古いからな」六ちゃんは怠け者の整備係に譲歩して呟く、「やつらに小言を云ってもしゃあねえだろう」
終って顔を洗い、朝めしが済むと出勤であるが、おくにさんがしょうばいの材料を買出しにゆく日は、帰って来るまで待たなければならない。買出しはたいてい一日おきであるが、毎日のときもあって、すると六ちゃんは苛立っておちつかず、こんなに遅刻が続いては成績に影響する、と不平を云うのであった。
出勤するときは勝手へまわる。例の蜜柑箱から制帽を取ってかぶり、油じみた軍手をはめ、コントローラー用のハンドルと名札を取りあげる。右のうち現実に存在するのは軍手だけで、他の三品が客観的には架空なものなことは、まえに記したとおりである。