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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

五

ほっとした気持がどこかでしないでもない。しかし、決して愉快ではなかった、自分の力が軽視された結果にほかならないのだ。父の死後、怠って来た修業のあとを省みて、清十郎は暗い気持だった。

――あれほどな門下や家人が、どこへ潜んでしまったか、道場には、もう彼一人しか残っていなかった。そして、井戸の底に似た物音のない暗さと冷たさが、邸のうちを占めた。

――じっとしていられないものが、清十郎の腰を起たせた。窓からのぞいてみると、灯の色が映しているのは、武蔵という客を待たせてある一室だけで、そのほかに何物も見えなかった。

五

障子のうちの燈火は、時々、静かな瞬きをしていた。

縁の下、廊下、隣の書院など、その仄かな灯影のゆれている一室の他は、すべて暗かった。徐々と、無数の眼が、蟇のようにその闇を這い寄っていた。

息をころし、刃を伏せて、

「…………」

じっと、燈火のさす内の気はいを、身体じゅうで訊き澄ます。

(はてな?)

藤次は、ためらった。

他の門人たちも、疑った。

――宮本武蔵とやら、名まえこそ都で聞いたこともない人間だが、とにかくあれほどつかう腕の持主である。それが、しいんとしているのはどういうものだろう、多少なり兵法に心をおく人間ならば、いくら上手に忍び寄ろうが、これだけの敵が室外に迫って来るのを気づかずにいるはずは