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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

それも、生やさしい切り方ではないのだ。わずかな木口であるが切り人の非凡な手の冴えが光っている。

試みに、武蔵は、自分もそれに倣って腰の刀で切って見たのであるが、こう較べて、細やかに見ると、やはり違っている。どこがどうと指摘できないが、自分の切り口には、遥かに劣るものを正直に感じるのだった。――たとえば一個の仏像を彫るのに、同じ一刀を用いても、その一刀の痕には、明らかに、名匠と凡工の鑿のちがいが分るように。

「はてな?」

彼は、独り思う。

「城内の庭廻りの侍にすら、これほどな手腕のものがいるとすると、柳生家の実体は、世間でいう以上なものかも知れない」

そう考えてくると、

「誤っている、自分などはまだ所詮――」

と、謙遜った気持にもなるし、またその気持を乗りこえたものが、

「相手にとって不足のないものだ。敗れた時は、いさぎよく、彼の足もとへ降伏するまでだ。――だが、何ほどのことがあろう、死を期してかかるからには」

闘志を駆って、こう坐っているうちにも、全身が熱くなって来る。若い功名心が、脈々と、肋骨のうちに張りつめる。

――が、手段だ。

所詮、武者修行のお方には、石舟斎様は、お会いなされますまい。