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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
花物語
一 昼顔
いくつぐらいの時であったかたしかには覚えぬが、自分が小さい時の事である。
宅の前を流れている濁った堀川に沿うて半町ぐらい上ると川は左に折れて旧城のすその茂みに分け入る。
その城に向こうたこちらの岸に広いあき地があった。
維新前には藩の調練場であったのが、そのころは県庁の所属になったままで荒れ地になっていた。
一面の砂地に雑草が所まだらにおい茂りところどころ昼顔が咲いていた。
近辺の子供はここをいい遊び場所にして柵の破れから出入りしていたがとがめる者もなかった。
夏の夕方はめいめいに長い竹ざおを肩にしてあき地へ出かける。
どこからともなくたくさんの蝙蝠が蚊を食いに出て、空を低く飛びかわすのを、竹ざおを振るうてはたたき落とすのである。
風のないけむったような宵闇に、蝙蝠を呼ぶ声が対岸の城の石垣に反響して暗い川上に消えて行く。
「蝙蝠来い。
水飲ましょ。
そっちの水にがいぞ」とあちらこちらに声がして時々竹ざおの空を切る力ない音がヒューと鳴っている。
にぎやかなようで言い知らぬさびしさがこもっている。
蝙蝠の出さかるのは宵の口で、おそくなるに従って一つ減り二つ減りどことなく消えるようにいなくなってしまう。