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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

けれども結局、わずらわしさに、こちらは根負けしてしまいましたし、なお続ければ、以後の高山右近も相当長くかかるので、切れ目を作って、右近のごく若い時代でひとまず終りを作ったわけです。どうも宗教関係のものは、右近だけでなく、たとえば法然、親鸞、日蓮、道元といった人を書くのでも、よほどな用意をもっていないと、信仰的反ばくがつよいから、むずかしいようですな。「文芸と史実」「文芸と信仰」とは、結局、水かけ論になって、双方が釈然とするわけにゆかない場合がまま多いんです。

そこで、僕には、いつも負債に思ってることが一つあるんです、例の「親鸞」なんですがね。あれは自分の三十歳台に書いて、四十台にまたすこし書き直して、それから、出版になるとき「どうも、いま見直すと、じつに恥しい。自分の年齢の背丈けで、親鸞などをこう書いたのは、めくら蛇におじずであった。だから、自分が五十歳になったら、もう一ぺん書き改める」と、序文へ公約的に書いてしまったんです。ですから、どうかすると皮肉な読者が「その公約はいつ果すのか。貴下はもうたしか六十へ入ったはずだが」などと、からかって来たりする。