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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
検事のこの論告に対して行われた私の弁論は何という力なきものだったでしょう。私は元来、自分を雄弁だと考えた事はなかったのですが、凡そこの時程、みじめな弁論をした事はありません。私はただ被告人が若年であるという点、一時の怒りにかられてなした若人の犯罪という点に就て、いくらかの主張をなすより外仕方がなかったのです。
検事の論告、私の弁論、この間、被告人は美しい顔を少しも乱さず、不相変、しずかな表情をもって黙ってきいて居たのでした。
言渡しの日は来ました。
あなた方も御承知の通り、この言渡しは死刑でした。裁判長が判決文の順序を逆にし、事実及び理由を先に読みはじめた時、私は既に之を知ったのです。美しき被告人は、之も少しも驚かずにきいて居りました。
死刑の言渡しがあった後せめてもの努力として、私は控訴するようにすすめて見ましたが、被告は断然之を拒絶しました。そうして、御承知かも知れませんが、この春の或る日、死刑は遂に執行されて、大寺一郎は絞首台上にその青春の生命を終ったのでした。
私がお話しようとした事件は以上の様なものであります。
ところが、彼の死後、私ははからずも獄中で記した手記を手に入れたのです。