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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
外は風はやんだが、雨は依然として降りつづいて居る。
俺は、青年特有の感傷的な気もちで、道子と自分とが愛し合って居りながら、如何ともする事の出来ないありさまを考えた。ヴェルテルを今更のように思い出して、快いような悲しいような気分に浸って居た。が、頭は又いつか現実の世にかえって来る。そうすると、あの豊麗な身体をもった女性が、愛も理解もない男と、今自分の居る上の室に一緒にねているのだと思うと、何とも云えない不愉快さが身にしみ通って来る。俺は又心に清三を呪った。清三の存在を呪った。一寸した物音にも敏感になって、浅ましいいろいろな想像が頭の中を通りすぎる。雨はやまない。
遠い室から女中の鼾がきこえて来る。丁度海の中で泳いで居る時のように、全身の力を手足一杯にはり切って、身体をのたうちまわらせて見たい、大声をあげて叫びたいような気持に襲われはじめるかと思うと、いつか又ロマンティックな、夢のような、やるせない気分になってただ涙がこぼれ落ちるのであった。
こんな錯雑した気もちのところへ、昼間の疲れがやって来るので、自分はただただ、天と地との間を上ったり下りたりするような気分で約一時間余をすごしてしまった。