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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
と叫んで立ち上った時であった。
俺は夢中で飛び込んだ時、蚊帳にぶつかったと見え、釣手は引きちぎられてだらりとたれかかったが、俺も清三もいつの間にかはねのけていたと見える。
ぐるぐる巻に縛り上げられて横たわって居る道子をそばに、清三と俺とはつっ立ったままでにらみ合った。そこには物凄い沈黙があった。清三は驚きからやっと自身を取り返したらしく右手に刃物をもった儘、俺をにらみつけて立っていた。
おお此の瞬間を境にして、俺は地獄に落ちねばならなかったのだ。此の奇怪な沈黙が破られた途端、此の場にいた三人の生命は永遠に呪われたのである。
此の沈黙は道子によって破られた。
「一郎さん、あなた馬鹿ね。ほんとうに、ほほほほ」
両手を縛られ、責め苛まれていた道子が発したこの奇怪な一言は、俺の為に天地を覆らしたのだ! おお道子の今の言葉! 今の笑い声。
電光の如く俺の頭にひらめいたものがあった。俺は雷に打たれたように感じて、そこに石のようになってたちすくんだ。
ぐらぐらと脳味噌が動揺したような感じがしたと思うと、堪え切れずにそこにそのまま蹲ってしまったのであった。
俺は今、獄中に在って、当時のようすをふり返りながら、出来るだけ此のときの状況を詳しく思い出そうとしている。