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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

野の獣にも生殖を営むべき時期は一年の中に定まって来るのに、人間ばかりは已む時なく肉慾の為めにさいなまれなければならぬ。しかも更に悪いことには、人間はこの運命の狂いを悔いることなく、殆んど捨鉢な態度で、この狂いを潤色し、美化し、享楽しようとさえしているのだ。

私達は幸いにして肉体の力のみが主として生活の手段である時期を通過した。頭脳もまた生活の大きな原動力となり得べき時代に到達した。女性は多くを失ったとしても、体力に失ったほどには脳力に失っていない。これが女性のその故郷への帰還の第一程となることを私は祈る。この男女関係の堕落はどれ程の長い時間の間に馴致されたか、それは殆んど計ることが出来ない。然しそれが堕落である以上は、それに気がついた時から、私達は楽園への帰還を企図せねばならぬ。一人でも二人でも、そこに気付いた人は一人でも二人でも忍耐によってのみ成就される長い旅に上らなければならない。

私はよくそれが如何に不可能事に近いとさえ思われる困難な道であるかを知る。私もまたその狂いの中に生れて育って来た憐れな一人の男性に過ぎない。私は跌きどおしに跌いている。