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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
先日、アメリカにいるシュラーから、麻布のあの洋館が明いているだろうか、明いていたら幸福だが、という意味の手紙がきました……いま、お話したように、シュラーなる人物は、課税報告番号によると、『アメリカを支配する六十家』の第四位に位いする大財閥の御曹子で、やろうと思えば、帝国ホテルを借切ることだって出来るのに、東京にいるあいだ、この古ぼけた洋館を宿にしたいなんていうのは、まことに微妙なことでして……こちらのご長女さまが、犬吠のサナトリウムにいるご長男の附添いで行っていられて、ときどき買物に東京へ出てくるのを、シュラーがよく自動車で迎いに行くのを見た……などとは申しませんが、シュラーがどういう気持で日本へ遊びに来るのか、その気持がわからないわけではありませんから、あの洋館をお貸しねがい、占領中、シュラーの部下だった同業一同がお世話をして、たとえ何日でも、気持よく滞在してもらおう……と、まア、こういうわけなんです」
五十雄君が犬吠の自炊式のサナトリウムにいるとき、千々子さまは、じぶんから附添いを買って出て、半年ばかり、渋谷のバラックに帰らなかったことがある。