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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页

青空文庫

つぎの夫人ができるまで彼女は生きているのだ。妻というものの恐ろしさはその生前もそうだが、死後のきよらかな妄執こそもっとも恐ろしいものだ。光太郎はうたっている。(画もかかず、本も読まず、仕事もせず、そして二日でも三日でも、笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き、さんざ時間をちぢめ、数日を一瞬に果す、ああ、けれども、それは遊びぢやない、暇つぶしぢやない、……後略)

光太郎はこの山小屋で毎夜智恵子への肉体幻想に、生きるヒミツをとどめていた頃、この山小屋にしげしげとわかい女からの手紙が、一週間に一度とか十日間に一度ずつ届いていた。ひとくちに言えばありふれた愛読者の手紙であった。しかしその手紙の冒頭にはいつも光太郎様とあるべきところに、今日はお父さん、ではまたお手紙をさしあげるまでお父さんは風邪をひかないでいてくださいと書き、ふしぎな言葉のあまさを含むお父さんという文字が続いて書かれていた。かれはこの異常な嘗てかれ自身が父にむかって呼んだ愛称が、この山小屋の中で日が晴れておれば、その晴れた日の中で呼びつづけられ、はしばみの裏の林に風がわたる夜中にも、雨戸のすきから柔しい父誦の愛呼がつづいた。