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そうわ
挿話
徳田 秋声
「中央公論」1925(大正14)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页
老母はそう言って、目の先きに木の生い茂っている山を見上げながら、
「山の青々したものはいいもんや」
するうち二人とも横になって、いい心持にうとうとしていた。
辰之助が来たのは、山の上に見えた日影が、もうだいぶうすれたころであった。
「大掃除はどうかね」
「やがて片づくでしょうが、今東京から電報が来まして、りいちゃんが病気だそうだ」辰之助は緊張した表情でそう言って、電報を道太に渡した。
道太はまたかと思って、胸がにわかに騒いだ。
電文は三音信ばかりあった。「リツコジウビヨウビヨウメイミテイダイガクヘニウインシタアトフミ」そういう文言であった。
道太はひどく狼狽したが、かろうじて支えていた。
「こっちへ来ると、何かあるのも変だな」道太は呟いたが、何か東京の方へ通信があって、それで呼び返すための電報じゃないかと、ちょっとそういう疑いも起こった。ここへ来てから、彼は東京へ一度しか音信をしていなかった。しかしその疑いは何の理由のないことは自分も承知していた。
「いったい何時だろう」
「四時です」
断定的に帰宅を促した電文が、それから間もなく辰之助の家からお絹の家へ届いて、道太はにわかに出立を急ぐことになった。