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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

を損なわないという線の太い特質があったというだけの人材だった。

「なに。わしに一度、大坂へ遊びに出て来ぬかと? ……。それは行ってもよいが」

晴季は秀吉の使いに、色気を見せた。――来たなと、すでに合点の顔いろである。

日を約して、かれは早速、大坂城へ、公用の名目を作って出向いた。そして秀吉と会った。

型どおりの饗応のあとは、例の、茶である。秀吉が茶をたて、千宗易と、もひとり、妙な男がいて、晴季を主客に、もてなした。

近ごろ、武人の間に、茶は非常な流行をみせていたが、公卿仲間では、晴季はじめ、とんと、こういう“佗び”とか、“閑寂”とかいうものに、興味をもっている者はない。

なぜならば、公卿たちの極端な貧乏生活には、あらためて“佗び”や“閑”を取り入れるほど日常が豪奢でも繁忙でもないからだった。

むしろ、ありのままな、貧乏ぐらしそのものが、佗び過ぎているくらい、貧しい、乏しい、暮しであった。

もっと重要な原因は、武家たちのように、何ら、生活の緊張というものがない。朝あって夕べの知れぬ、そんな生命観もない。――それが自然、風貌にも、感覚にも、のッぺりと現われているのが公卿だったが、晴季には、もっと俗気があった。