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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
「殿ッ、なぜお止めなさいますか。この者を助けておいては」
と、ひしめいた。
「いやいや。そこの柱へ、縛り付けておくだけで、事はすむ。構えて伝右を殺すな」
人々は、初鹿野伝右衛門のからだを、うしろでに縛り室の一隅へ、からめ付けた。
山田佐内は、その間に、数正の耳へささやいた。――大給の松平近正が、約を破って、浜松へ注進する惧れがある――ということをである。
数正は、あわてなかった。
「では、すぐ立とう。そちたちは、女子供を護って、先に出ろ。――わしも後からすぐ参る」
人々の跫音が、どやどやと流れて行った。数正は、ふたたび、伝右衛門の前へ寄って、
「伝右。ゆるせよ」
といった。伝右衛門は、眼をとじて、眉に無念をみなぎらしていた。数正は、なおいった。
「すこしの間、ここで、怺えていてくれい。おぬしの武士が立たんようにはせぬ。――主君にそむき、良い友を捨て、数正の心も決して、晏如ではない。……が、運命の是非なさであろう。ゆるされい」
「…………」
数正は、なお、うしろに立っていた二、三の家臣へ、いいつけた。
「灯を、消し残すな。――屋敷うち、隅々、消し忘れた灯はないか、よく見て、外へ出よ」