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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「すわ!」

と、耳あるほどな者はみな毛穴をよだてて、やがての戦況如何にと、彼方なる雲か山かの一山影を凝視していた。

北軍光秀の陣営御坊塚から見るときは、天王山はここから約二十余町の西南にあって、その左の麓に、一すじの山崎街道と、一条の大河とを擁している。河はもちろん淀である。

山頂はかなり高く嶮しく、最高二千七百尺はある。別名をこもりの松山ともいい、宝寺の山ともいう。峨々たる岩山で、全山、松の木が多い。

――きのう秀吉の本軍が富田大塚附近まで進出すると、麾下の諸将はみなまッ先に、この山に目をそそいでいた。

「あれは何山というか」

「あの東麓が山崎の駅か」

「敵の勝龍寺は、あの山の、どの辺の方角にあたるか」

など口々に土地の案内者に問いただしていた。

地理に詳しい者を陣中に伴うことは、どの隊でも必携の具としていた。それに問うて、天王山の軍事的価値に目をつけたこともまた、多少戦略眼のある人々のあいだではみな一致していた。

「あすの合戦はあの山を先に占めて、高地から敵を俯瞰して打つの有利に立った方がまず勝ちであろう」

また必然、諸将の胸には、

「――先駆けて遮二無二、天王山にお味方の旗を立てた者こそ平野の一番首よりも、戦功第一の誉れたらん」