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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

毛利側を代表する恵瓊と、羽柴方の彼との会見は、いつもこの人目のない所で行われていた。

「貴僧とそれがしとは、思えば不思議な宿縁だな」

対坐すると、彦右衛門は何思い出したか、沁々いった。

「まことに……」

と、恵瓊もふかくうなずいた。

ふたりの胸には、二十余年前の蜂須賀村の小六のやしきが思い出されていた。わけて彦右衛門正勝には、その頃、僧侶としてはまだ多分に若気であった一旅僧の恵瓊の姿が追憶された。そして感無量な面でながめ入るのであった。

織田信長の清洲という小城のうちにも、木下藤吉郎という出色な人物がひとりいる――ということを恵瓊が親しく知ったのも、旅の修行中、その蜂須賀村に一宿した機縁によるものであったのだ。

以来、年は経ても恵瓊は、織田麾下に藤吉郎という一青年将校のあることを久しく忘れることができなかった。天正元年といえば、まだ今日の秀吉が、その頭角すら認められず、柴田、丹羽、滝川などの諸将から見ればずっと末輩に置かれていた頃なのに、当時、恵瓊が都から中国へ報じた吉川元春宛の書状のうちには、偶然か、炯眼かこういうことすら認めてあった。

――信長の代、五年三年は持たせらるべく候。