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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「オ。――部落へ出た」

「小栗栖であろう。ひそかにしたまえ」

「そうだ。静かに通ろう」

やがて面々は目顔で、戒め合っていた。草ぶかい山家の茅屋根がおちこちに見えて来たからである。そうした人里は努めて避けたいのであるが、道はおのずから家々の間へ入ってゆく。

――が、幸いなことには、何処をながめても、燈影一つ見えなかった。白い月の下、大竹藪に囲まれた山里の屋根は、世の騒乱も知らず、深々とみな眠り入っている気配だった。

厳密な眼を光らせて、はるか先の方を、物見しながら駈けていた明智茂朝、村越三十郎の二騎は、狭い村道の一とすじ道を、つつがなく通り越して、かの藪の曲がり道に佇み、あとから来る光秀たちのひと群れを待ちあわせていた。

その影と、二人の引ッさげている槍の白さが、半町ほど先の樹陰に、キラキラ見えたときである。バリバリッと、青竹でも踏み折るような響きと共に、ううむ――と野獣でも唸いたような声がどこやらでした。

「……や?」

光秀のすぐ前に立って、密やかに駒を歩ませていた比田帯刀は本能的にうしろを見た。

暗い竹叢に覆われた山家の柴垣に沿うている暗がりである。