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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
今もむかしも、農村にはかならず一人や二人はいるぶらぶら者――怠け者で、すれからしで、屁理窟ばかりこねて、勤勉な農をダニのように邪げている――いわゆる駄農の類いには違いないようである。
従来の通説によると、とかく戦国期の百姓は、平常は田畑に出て働いているが、附近に戦争があると忽ち土匪化して、弱い落人を襲ったり、戦死者の持物を剥いだりすることを稼ぎとしていたかの如く伝えられている。しかしこれは史家の大きな誤認だと思う。日本の百姓の郷土における悠久なすがたを、他民族の百姓と同列に視、或いは唯物史観に陥ちた史家の誤謬にほかならぬものである。決して、過去の史家にいわれたような弊風と悪質な生態が、当時の農村そのものであったわけではない。
ただこういうことはいえるかと思う。
戦乱による「時の敗者」にとっても、悪質な闇の横行者や怠け者にも、当時の農村は全国的によい匿れ家にされていたという事実である。滔々とこれらの者が流れこんでいたには違いない。だが、こういう帰郷者や外来者と、祖先以来そこに住んで、黙々と土のみに天命を託して、五穀を祷り耕していた純然たる百姓とは、当然、区別して考えられねばならない。