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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
水も静か。四山も静か。――漕ぎよせてくる検使舟の櫓の音のみが耳につく。
はるか西の岩崎山から、今日はこの辺りまで手にとるように望まれているだろう。そしてそこには毛利輝元、吉川元春、小早川隆景などが座をつらね、味方三万の将士も鳴りをひそめて、この一点に眸を凝らしているにちがいない。
さらに。――羽柴筑前守秀吉の本陣石井山は、もっと近々とここを俯瞰する位置にあった。その麓から堤上数十町にわたる陣々も馬印と旗で埋められていた。
宗治は遠く岩崎山のほうへ向って、心のうちでは多年の恩顧を謝し、なつかしの主家の旗を見ては、ひとみに惜別をこめていた。
「それへお渡りありしは、高松城の守将、清水宗治どのでございますか」
検使の舟は、すぐ側へ来た。こう呼びかけたのは、使者の堀尾茂助である。
宗治は、こなたの舟から、
「おことばの如く、長左衛門宗治でありまする。御和睦の一条を相果すべく腹を切りに参ってござる。御検使の役、御苦労にぞんずる」
と、一礼した。
「なお、申しあげたいお言伝もござれば、少々、お待ち候え」
茂助は、そういってから、扇子を上げて、宗治のうしろにいる難波七郎次郎へ、