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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
それだな。五ヵ国を割いて献じるといえば大譲歩しているようだが、備後一国をのぞくほかは、今なお争奪の地で、必ずしも、毛利方の領下として治められている地ではない」
「仰せのとおりです」
「さるを唯々として宗治の一命をも助け、和議に応じるわけにはゆかない。これは信長公の御意を俟つまでもないことだった。勝敗の決はすでにわが手にあるのだから。――しかし今となると、この機会は、だいぶちがって参った。この和を逸してはならぬことになった」
「まことに、ここは間髪、伸るか反るかの大機と存ぜられます」
「敵の毛利が、京都の変を知るがさいご、到底、和議はむずかしい。戦いの主導は彼の手にうつり、必然、大勢すべてわれの不利となる。……が、毛利はなお気づいてはおるまい。おそらくはまだ」
と、秀吉は語尾に力をこめて、もういちど、
「おそらくはまだ何事も知っていまい。――天のわれにかし給える数刻の時は――敵がそれを知るまでの遑でしかない。大機をつかみ、大策を施すも、そのわずかな間にのみ限られておるのだ。一刻一刻が、いまほど尊いときもない」
「まだ今夜は、三日の真夜半、ようやく子の刻(十二時)頃と思われます。