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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

場所は首部という山村の、部落からも離れている間道だった。

「どこへ行く」

一小隊で取り囲むと、男は杖を止めて、

「備中の身寄りへまいります」

と、至極神妙である。

「備中のどこへ」

たたみかけると、

「はい、庭瀬で」

と、そら嘯く。

「庭瀬へ行く者が何でこのような山道を好んで歩くか。しかもこの真夜半」

「ほんに、仰っしゃるとおりで、黄昏に旅籠を求めそこね、一里先へ行ったらあるか、二里歩いたら泊まれるかと、ついつい盲人の勘と強情から、こう参ったのがまちがいの因でした。……どう参ったら旅籠のある人里へ出られましょうか、どうぞお教え下さいまし」

と、竹の杖に両手をのせて、さもさも愍れを乞うようにうなずいた。

じっと、様子を見ていた部将は、いきなり指さして、

「こいつ、偽盲だ」

と、一喝をあびせ、部下へむかって、縛りあげろと命じたのである。

すると、盲の男は、眼があいたような驚き方をして、ぱッとうしろへ跳びのきながら、

「と、と、とんでもない」

無性に地を叩いては言い訳した。

自分は都の者で、検校の允可も持っている。年久しく琵琶など教えて生活していたが、庭瀬にある老年の叔母が危篤というので、身の不自由も顧みず、取るものも取りあえず、こうして西へ下って来たもの。