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にほんばしふきん

日本橋附近

田山 花袋

「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页

青空文庫

五

またこの大通りには至るところに錦絵を並べた店があって、そこに芳年の『月百姿』だとか永濯の『歴史百景』だとかいうものがかけられてあったので――否浅草あたりのそういう錦絵の店には、春画に近いものまでもかけつらねてあったので、びっくりしたような心持で、更にいい換えれば、その時分には、他に雑誌などというものがなかったので、そういう錦絵のようなものの中からそっと人生やその人生の底に深く蔵されてある秘密をのぞくというようにして、長い間じっとそこに立尽していたことを想い起す。しかし江戸時代には、日本橋の畔も、決してそうした無秩序ではなかったのであろう。もっと整理されたものであったのであろう。そうした混雑は明治の初年の空気の名残であったということが出来るであろう。その空気――そのデジェネレイトした空気が私には懐かしい。

五

震災後は何うなって了ったかわからないが、大通と南仲通との間に細い路地があって、小僧時分に私が面白がってよくそこを通ったことを思い出した。私は南伝馬町から一町ほど日本橋の方へと歩いて来て、すぐ左に入って、それからその路地を縫うようにして通って行ったのである。