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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
それは通四丁目の大時計のあった通りをずっと右に入って行ったところにあった。私はその頃牛込に住んでいたが、いつも九段を通って、丸の内をぬけて、その橋をわたって大通の方へと行った。それは明治二十二年頃だった。私はよく槇町の北中通の古雑誌屋へと出かけて行った。それはその時分には、外国のグラフィックなどの附録についている銅版画がよく装飾品として売れたので、それでそういう外国の古雑誌店があちこちにあったからである。そしてその雑誌や銅版画の中に何うかするとその時外国で評判になっている小説などが混って入っていたからである。ウィルキイ・コリンスの『ムウン・ストン』などという本をもう少し後になってからそこで買った。ウィリアム・ブラック、アンソニイ・ホオプなどのものもそこにあれば、ビクトル・ユウゴオやユウセン・シュウのものなどもそこにあった。
私は丸の内のさびしかったことを思い起す。乳の形をしたカンのついた大きな門や、なまこじっくいの塀や、壊れた大名屋敷の格子窓のついた長屋のあったことを想い起す。またその間の路は長くって、また雨の降った時などは路がわるい上に横しぶきにしぶくので、傘も何も役に立たなかったことを想い起す。