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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
十五
そういう疑問がいつも私をそこに入って行こうとする心から引返させた。
京橋を渡ってからは、私はきまって左側を歩いた。
ある年のその夜は、私につく/″\この人生の生がいのあることを痛感させた。それは明治四十二、三年頃だった。身体は丈夫だし、酒は飲めるし、男ざかりではあるし、書いたものは世間に迎えられるし、これがかつて角帯の草履姿で重い本を背負ってあえぎ/\大通りを歩いていた一丁稚だろうか。そう思った時には何ともいわれない気がして――むしろ今こそ人生の底にぴたりと触れたような気がして、身体がはち切れそうな充実をそこに感じた。
『多幸多福! これに越す多幸多福があるか?』
私はこんなことを心の中に叫んだ。
私はその大通りの中に私の一生のリズムがはっきりとたどられるような気がした。そこにいろ/\な私がいた。妻を伴れた私、子供をつれた私……。今でも私はその大晦日の散歩をやめようとはしなかった。
十五
三越の新館を見に出かけた。それは静かな明るい初夏の日の午前だった。私は多くの人達のようにエレベーターで七階まで行って、そこから屋上庭園へのぼって行った。
光線のキラ/\する中につつじが鮮かに咲いて、かたつむりの形をした噴水器から細い水が静かにほとばしるように両方に出ていた。