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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

都留は全身の震えを抑えることができなかった、それで崩れるようにそこへ手をついた。

「わたくし、昨夜のお言葉を、あちらでお聞き申しました」

「それで」主計は身動きもせずに云った、「……それで死んだ父が承知すると思うか」

「はい、……そう信じまして……」

「そうか」溜息をつくようにそうかと云い、ややながいこと沈黙したが、やがて主計はしずかに頷いた、「……これで心の荷を一つおろした、いちばん重い荷の一つだった、おかげで少し肩が楽になったよ」

泣けそうになるのを耐えながら、都留は身を起こし、もういちど主計の背に手を当てた。主計は黙って肩を任せたまま、暫く庭の櫟林のあたりを見まもっていた。

「花を咲かせた草も、実を結んだ樹々も枯れて、一年の営みを終えた幹や枝は裸になり、ひっそりとながい冬の眠りにはいろうとしている、自然の移り変りのなかでも、晩秋という季節のしずかな美しさはかくべつだな」

感慨ふかげな調子だった。都留はそれを聞きながら、――この方の生涯には花も咲かず実も結ばなかった、そして静閑を楽しむべき余生さえ無い。ということを思った――いま晩秋を讃えるその言葉の裏に、どのような想いが去来しているであろうか、と。