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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

――おんなの手におふれなすったこともないのだ。

都留はそう考えると、主計の孤独な慰めのない心が切なくなるほどじかに思いやられて、自分にできることならどんなにしてでも労ってやりたいというはげしい欲求に唆られた。

「少し肩をおもみ申しましょう」

「そうか」主計は微笑した、「……もんで呉れるか」

「不慣れではございますけれど」

そう云って都留は主計のうしろへ寄添い、しずかに両手を肩へ掛けた。骨立った、固い肩で、綱を通したようにひどく凝っていた。その凝った筋に沿って、柔らかくもみほぐしてゆくと、主計はさも快さそうに眼を閉じ、なんども大きく息をついた。

「わしはおまえを知っている」暫くして主計がそう云った、「……おまえが誰のむすめだかということも、ふところから懐剣を離さないこともよく知っている。いや、そのままもんでいて呉れ、いい心持だ」

「…………」

「おまえの父が死んだとき、中村惣兵衛におまえたち母子を頼んだのは、わしだ、またこんどもわし自身だ。……それはわしにとって惜しい人間だった浜野新兵衛の遺児が見たかったし、できることなら、責任を果したうえで討たれてやるつもりだったからだ、然し、……おまえは今朝、懐剣を持っていないようではないか」