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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

文絵と姉妹のように育って来たという事を聞いて、信太郎には小雪が他人と思えぬ親しいものに感じられた。

「――文絵どのは、拙者のことを御存じだったでしょうか」

やや暫くして信太郎が訊くと、娘は韻の深い声で、然し細々と答えた。

「はい、存じあげて居りました」「…………」「従姉上さまは毎も、貴方さまのお噂をわたしに聞かせて下さいましたわ、殊に……ご病気になってからは」小雪の声は顫えた。

「……生きている内に一度お眼にかかりたい、ひと眼お会いしてから死にたいと、口癖のように申して居りました。貴方さまもお待ち遊ばしたでしょうけれど、従姉上さまも……ずいぶんお待ち申していましたわ」「有難う、よく云って下すった」

こみあげて来るものをじっと耐えながら、信太郎は心から云った。

「これで本望です、拙者を待っていて下すったという、それさえ分れば……本望です。未練者とお笑い下さるな、文絵どのとの約束を聞かされて十年このかた、現にも夢にも忘れることの出来なかった俤……今でも眼の裏に見えています。信太郎には、文絵どのの他に妻と呼ぶべき者はないのです、せめて是だけのことを云いたかった」