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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

烈風に煽られる竹叢の左手に当って、明かに人の動く物音がする。

「向うだ、左から廻れ」「右手を詰めろ」と喚き交しながら物音をめあてに進む。鉄砲を持った二人の足軽が、闇の中を盲撃ちに、だーん、だーん、と三四発撃ちかけた。

然しその時すでに信太郎は、竹林の中を追手とは反対の方へぬけていた、彼等はやがて二十間も先の竹に結びつけた繩の仕掛けを発見するに違いない、信太郎はそれを引いて、彼等の追跡を逆に誘ったのである。

供頭は駕籠の中から采女の呻きのもれるのを聞きながら、一刻も早く現場から遠のくことを考えていた。

「急げ、急げ」

陸尺を急きたてながら、宗念寺の土塀を出端れて左へ曲る、とたんに先へ廻って待構えていた信太郎が、無言のまま供頭の太腿へ一槍つけた。

「わっ!」と悲鳴をあげて倒れるやつを、殆ど踏み越えざまに鐓を返して陸尺の足を払った。だあっと横倒しになる駕籠、

「あ、曲者、曲者!」仰天して喚く駕籠脇の供侍五名、抜合せる暇も与えず二人を突き伏せ、

「邪魔するか、退け!」と叫んだ。眼にも止らぬ早業、虚に虚を衝かれて狼狽しきっていたから、この一喝を喰うと残った三名はひと堪りもなく逃げだして了った。