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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

最早どんな手段をもってしても采女の勢力を掣肘することは出来ない。彼はいま運命の波に乗っているのだ、正面から逆えば此方が破砕されるに定っている、

「万策尽きた、斬ろう」と彼は決心したのである。

是までにも義憤の士が再三、彼の屋敷や途上を襲って刺そうとしたが、いずれも失敗に帰したのは、狐のように要慎深い采女の、厳重な警護に妨げられたからであった。然し如何に采女でも城中では裸だ、間近に相対している隙を狙ったら、老いたりとも建部監物、

「采女一人やわか討たで置くべき!」と必殺を期したのである。

×

「――御免下さい」襖の向うで声がした。

「誰じゃ」「信太郎でございます」

監物は手早く机上の書き物を片づけた。信太郎の入って来る気配に、

「何処かへ出掛けたと聞いたが」「はい、ちょっとそこまで出て参りました」

返辞なかばに振向いた監物は、すっかり旅支度の出来ている信太郎を見て驚いた。

「どうしたのだ、その姿は」「お暇仕り度いと存じまして」「なに帰る……この夜中にか」「長々とお邪魔仕りましたが、急に思いたちましたので、甚だ勝手ながらこれから出立致したいと存じます」