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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう
本州横断 癇癪徒歩旅行
押川 春浪
「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,749 字 · 45 页
跡に残った吾輩等は、焚火に燃ゆる枯枝を松明と振り照らし、とある大木の下の草の上に天幕を張り出したが、松明は雨で消える、鉄釘は草の中へ落ちて見えなくなる、その困却は一通りでなかったが、彼の殿様然たる剛力どのには、水を汲みに行こうとはいわねば、天幕を張る手伝いをするでもなく、ただ焚火に噛り着いてはや居眠りを始めてござる。
三、四十分も掛かって漸く天幕を張り終り、筵を敷いてそこへ覚束なくも焚火を始めた頃、水汲み隊は息を切らしヘトヘトになって帰って来た。
「万歳万歳」の声は四方に起り、一同は蟻の甘味に付くように水汲み隊の周囲に集り、咽を鳴らして水筒の口から水を呷る。その旨い事! 甘露ともなんとも譬えようがない。
スルト今まで居眠りをしていた剛力先生、二人共ノソノソやって来て、吾輩等の背後から猿臂を伸ばして水筒を掴もうとする。
「コラッ、貴様ッ、ろくろく働きもせぬくせに、生血のような水を唯飲みしようとは、怪しからん奴だ」と呶鳴り付けたが、考えてみればあれも人の子、咽の渇くのは同じだろうと惻隠の心も起り、
「皆飲むなよ」と、長い竹筒の水を渡してやれば、先生竹筒に口を当てるが早いか、逆様にして皆ゴボゴボと飲んでしまった。