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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

人々は一日の安息を得、霊魂の糧を得ようとして、その日曜を楽しく送ろうとした。

浅見先生が牧師として働いている会堂は学校の近くにあった。そこに捨吉も教会員としての籍が置いてあった。その朝、彼はいくらか早めに時間を計って寄宿舎を出た。そんな風にして会堂で繁子に逢うことを避け避けしていた。若い娘達を引連れて彼女が町を通っている時刻は大凡知れていた。谷を下りてまた坂に成った町を上ると、向うの突当りのところに会堂の建物が見える。十字架の飾られた尖った屋根にポッと日の映じたのが見える。

町の片隅には特別の世界を形造る二三の人が集って立話をしていた。いずれも会堂の方で見知った顔だ。思わず捨吉は立留って、それらの人の話に耳をとめた。

長い髯を生した毛深い容貌の男が種々な手真似をした後で、こう言った。

「確かに奇蹟が行われました」

その前に立った男は首を垂れて聞いていた。

「医者が第一そう言うんですからね」ともう一人の老人が話を引取って言った。老人は眼を輝やかしていた。「とてもあの娘は吾儕の力には及びませんでしたッて。医者がもう見放して了った病人ですぜ。それが貴方、家族の人達の非常な熱心な祈祷の力で助ったんですからね」