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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

わざと召使達を退けて、夫人自身で紅茶を入れたり、お菓子を取ってくれたりしました。

私はそこで夫人から重大な話というのを聞きました。

『今から恰度十日ばかり前になります。有喜子が殺されたと同じ晩に、総領事館では大宴会があったのでございます。その時、白石という若い書記生がすっかり忘れていたある急な用件を思い出し、宴会の席をこっそり脱け出して、オッフィスに入り急いで用事だけすませ、慌てて外へ出ようと扉を開けますと、すうっとまるで風のような早さで出て行った黒い影みたいなものがあったんです。自分の傍をすりぬけた時、ぷうんといい香水の香が四辺に漂ったそうですが、とにかく白石が呆気に取られて彳んで居る間に、その黒い影は忽ち門衛に捕まってしまいました。

何者だろう? オッフィスの中に忍び込んでいたものに違いない、どうも女らしい気がする。白石さんは好奇心にひかされて門衛の傍へ近づくと、黒いヴェールに包まれて、顔はよく見えなかったそうですが、背の高い女で、

「白石さん、私よ、何とかして頂戴な」と哀願するような調子で云ったそうです。白石さんは、好い気持にはなっていたし、女から自分の名を呼ばれたのでふらふらと助けてやろうという気になったそうです。