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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

で、彼は、本田の家に帰って来てこれまでに感じたことのない、ある新しいあたたかさを感じながら、靴の紐をときはじめたのだった。

するとお祖母さんが言った。

「おや、今日は靴を履いて来たのかい。母さんにこないだいただいたのを、もうおろしたんだね。田舎の小学校では靴はいるまいに。」

次郎は、思わずお芳の顔を見た。お芳は、しかし、何の変った表情も見せてはいなかった。次郎は、安心したような、物足りないような変な気になりながら、上にあがった。

それから、みんなは茶の間の長火鉢のまわりに坐ったが、偶然だったのか、そうなるのが自然だったのか、いつも俊亮の坐るところにお祖母さんが坐り、その左に恭一、お祖母さんと向きあってお芳、その右に俊三、そして次郎は、恭一と俊三との間に一人だけ横向に坐ることになった。そして坐ると同時に、四人はすぐ火鉢に手をかざしたが、次郎だけは、手を出さなかった。四月に入ったばかりで、陽気はまだ寒かったが、四里近くの道を歩いて来たばかりの次郎には、火の気の必要がほとんど感じられなかったのである。

しかし、この瞬間、次郎は何ということなしに、変に冷たいものが、ふと自分の胸をとおりぬけるような気がした。