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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

そして、次第に白ちゃけて行く燠にじっと眼をこらした。

「ちっとでも次郎のためになることなら、仏も喜びましょうからな。」

そう言ったお祖父さんの言葉が思い出された。それはいいことのようにも思えたし、また悪いことのようにも思えた。自分のために、悪いことを考えるようなお祖父さんではない。――そうは信じていたが、ふだんのお祖父さんの言葉のように、彼の心にぴったりしないものがあった。

「かげになって、次郎をかばってくれる女が一人は居りませんとな。」

そうもお祖父さんは言った。が、次郎にはやはりそれもぴんと響かなかった。

(もし、さっき見た女の人がそうだとすると、あんな人に、乳母やのような親切な心があるわけがない。だいいち、あの女は自分がこれまで見たこともない人ではないか。)

彼は、それからそれへと、いろんなことを考えつづけた。しかし、考えれば考えるほど、いよいよわけがわからなくなって来た。

そのうちに、あたりがそろそろ暗くなり出し、おりおり炉の中でくずれる燠が、ぱっと明るく彼の顔をてらした。そして彼の眼に浮かんで来るのは、母や乳母やの顔ではなくて、いつも、さっき見た女の人の横顔だった。