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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
とか、「摂理」とかいう言葉を思い出していたのである。
彼はまた、春月亭の内儀に侮辱されて、人間の道義というものに絶望しかけていたとき、朝倉先生にきいたミケラシゼロの話を思いおこしていた。苔むした大理石の中に「擒にされていた」女神の像を、鑿をふるって「救い出し」た芸術家の心は、清冽な水や白砂と共に彼の気持を次第に落ちつけて行くらしかった。
「おうい、本田ア。」
彼が水から首をもたげると、新賀が大声で彼を呼んでいるのがきこえた。次郎は、その時、水飼場から百メートル以上も下流にいたのである。
見ると水飼場の岩には、俊亮がふんどし一つになって立っており、こちらを向いてにこにこ笑っている。
次郎はちょっとあっけにとられた。そして急いで流れをさかのぼりかけたが、もうその時には、俊亮もざぶりと水に飛びこんでいた。
「父さん、どうしたんです。」
近づくと、次郎がたずねた。
「県庁に行ってかえりがけだよ。お前たちが泳いでいるのを見つけたもんだから、つい父さんも泳いでみたくなってね。」
俊亮はそのふっくらした真白なからだを、胸まで水にひたして答えた。
「県庁で何があったんです?」