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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
しかし、それが詩になってしまってはいけない。世間普通の人にも、すらすらと受けいれられるような文句でなければならないのだ。そう思うと、詩を作るになれた彼の頭は行きつもどりつするのだった。そのために、彼は、お芳が台所のあとかたづけを、めずらしく女中のお金ちゃんだけに任して、いそいで大巻をたずねたのも、そのあと間もなく徹太郎がやって来て、俊亮と座敷の縁で何か話しこんでいたのも、まるで知らないでいたほどだったのである。
彼が、どうやら自分で満足するような文句をまとめあげたのは、もう真暗になった門先をぶらついていた時だった。彼は、それをノートに書きしるすために、いそいで家にはいり、階段をのぼりかけたが、その時はじめて徹太郎の来ているのに気がつき、思わず立ちどまって耳をすました。
「時勢が時勢でないと、こんなことはむしろ美しいことですがね。」
徹太郎の声である。話はもう大よそすんだらしい口ぶりである。
「次郎がどこまで考えてそんなことをやろうとしているのか、とにかく、あとで私からよくききただしてみることにしましょう。」
「ええ、そうなすった方がいいと思います。ほっておいて世間をさわがすようなことになっても、つまりませんからね。