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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

いやしくも一人の人間が血を流してつづった願いだ。それがまるで無視されるという道理はない。実は相手が役人ではだめだというが、たといつまらん役人でも、いやつまらん役人であれはあるほど、血書をつきつけられてそれを默殺するだけの勇気はあるまい。彼にはそんなふうにも思えるのだった。それは、満州事変このかた、軍部に対する血書の歎願といったようなものが青年の間に流行し、それが新聞に発表されるごとに、たいてい役人がきまって感激的な感想をもらしていたのを、よく知っていたからであったのかも知れない。

俊亮は、彼の気持にはとんちゃくなしに、

「しかし、せっかく書いたものをほごにするにも及ぶまい。まあ出すだけは出してみるさ。すこしなまぐさいだけで、べつにわるいことではないからな。まあ、しかし、これという返事は得られないものだと思った方がいいね。」

「まるで返事もしないって、そんなことがありますか。」

「そりゃあ、あるとも。多分学校といっしょになって秘密に葬ろうとするだろうね。」

「秘密になんか出来っこありません。生徒の中に署名するものが何人もあるんですから。」

「役人の秘密というのは、誰でも知っていることを知らん顔することなんだよ。