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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

それだけに、不安な空気はひけ時が近づくにつれ、次第に濃くなって行った。

それでも、その日は、森川の教員適性審査以上に大した出来事もなく、ひけ時から二十分もたつと、校内には生徒の姿は一人も見られなくなった。ただ先生たちだけが校長の帰りをまつために居残っていたが、もう話の種もつきたらしく、どの先生も、いかにも所在なさそうな、それでいて何となく落着きのない眼をして、教員室を出たりはいったりしていた。

次郎は、新賀や梅本といっしょに校門を出た。新智と梅本とは、案外早く血書が県庁に届けられるようになったが、これはいいことだろうか悪いことだろうかとか、それが警察や憲兵隊の意志によったものだとすれば、恐らく結果は悲観的だろうとか、いや、警察や憲兵隊までが気にやむぐらいだから、却って有望かも知れないとか、そういったことをしきりに話しあったが、次郎はただ道づれをしているというだけで、ほとんど合槌さえうたなかった。そして、二人に、「気分でもわるいんじゃないか。」と心配されながら別れたが、それから二丁ほどの街角まで来ると、彼は急に立ちどまって考えこんだ。街角を左にまがって少し行ったところに朝倉先生の家があるのである。