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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

松雪院を始め並み居る女中共の視線は、やがてその腰元に案内をされて座敷の外の畳廊下へ恐る/\平伏した一人の男の、畳へ擦れ/\に着けている坊主頭へ集まった。それは剃刀のあとの青々とした綺麗な坊主頭であった。

「やあ、坊主、来おったな」

と、河内介が云うと、

「へい」

と、その坊主頭が小さな、哀れっぽい声を出した。

「あれは何者でございますの」

そう云ったのは松雪院であった。

「この男かい、これは道阿弥と云う坊主でな、此奴に今夜面白いことをやらせて見よう。―――」

そう云って河内介が、

「こら、坊主、面を上げろ」

と、叱るように云うと、

「へい」

と、又同じような声を出した。

「馬鹿な奴だな、へいではない、面を上げろと申すのだ」

「へい」

図

しかし今度は、その「へい」と一緒にぴょこんと道阿弥は首を上げた。圓顔の、色の白い、小太りに太った、三十前後のお茶坊主で、くり/\とした大きな眼をびっくりしたように見張って、へんに生真面目に取りつくろっている表情が、もうそれだけで何処かおどけたところがあった。その様子を見て誰かゞくすッと声を洩らすと、女中たちが方々でくす/\笑い出した。

「これ、これ、まだ笑うには早いぞ」