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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

敵味方狐疑の事、並びに薬師寺の兵城の囲みを解く事

おまけに彼等は、前を走って行く少年の姿を自分たちと一緒に起きて来た小姓の一人と思い誤まったらしかった。法師丸は間一髪のところを逃れてまだ外囲いの篠垣を越えないうちに、方々の櫓や望楼から貝や太鼓を一時に鳴らし出すのを聞いた。それと同時に彼方此方の小屋から夢を破られた者共が起きて来て、忽ち陣中の騒ぎになったが、その混雑が彼には一層都合がよかった。彼は追い/\数が殖えて来る松明のあいだを巧みに潜り抜けながら、やがて自分でも篝り火の燃えさしを取って振りかざした。自分の手に照明があると、自分の姿が却って人に見えにくゝなる。―――少年は賢くもその理を悟って、火を眼つぶしに使ったのであった。そして首尾よく構えの外へ脱出すると、すぐその場で松明を捨て、五六丁走った後に被衣を被って、見渡すかぎり渺茫とした月明の中へ溶け込んで行った。

敵味方狐疑の事、並びに薬師寺の兵城の囲みを解く事

歴史の記すところに依ると、薬師寺弾正政高は天文十八年十月牡鹿山の城攻めの際に陣中に於いて病を得、囲みを解いて京都に帰ったが、それから十日ばかり後に油小路の館に於いて病歿したとなっている。しかし此のことが事実でないのは「道阿弥話」