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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

武州公秘話巻之三

法師丸元服の事、並びに桔梗の方の事

―――「籠城の折だにあらば又逢ふこともあらん云々」と云う少年の心は、八百屋お七にも似て甚だ笑止ではないか。

武州公秘話巻之三

図

法師丸元服の事、並びに桔梗の方の事

法師丸の元服は天文二十一年壬子正月十一日、彼が十六歳の春であった。当時法師丸はなお牡鹿山の城にあって一閑斎の小姓を勤めていたのである。「見し夜の夢」には此の元服の儀式の次第が女らしい細心な注意を以て記されているけれども、それはあまりくだ/\しいから委しく述べる迄もあるまい。式は一閑斎の館の一と間に於いて挙げられ、加冠の役は父武蔵守輝国が領地から出向いて来て執り行った。そのとき、法師丸の身の丈は五尺二寸、始めて長小結の烏帽子を着けて父の後から歩いて行く姿を見ると、ちょうど父子のせいの高さが同じくらいであったと云う。

読者は、法師丸の十六歳の時の身長が五尺二寸であったと云う事実を、特に念頭にとゞどめて置かれたい。と云うのは、いったい此の時代の男子の平均の身長が何程であったかを詳らかにしないが、思うに戦国のむかしに於いても、五尺二寸と云う高さは十六歳の少年のものとしてさまで驚くには足りなかったであろう。