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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
武州公秘話巻之五
河内介父の城に帰る事、並びに池鯉鮒家の息女と祝言の事
たゞ杜鵑を河内介に擬し、「花散る里」を「鼻散る里」にかけたものに過ぎないので、源氏物語を読んではいなかった筈の河内介にも、底の心が酌み取れたことゝ思われる。
桔梗の方が河内介の情にほだされ、且その武人らしい人柄に動かされて、自分の方からも恋を感ずるようになったのはいつ頃からか分らないが、此の歌なども、単に「相談したいことがあるから会いたい」と云う意味には取りにくい。彼女は、交通を堰かれている間に知らず識らず彼を恋い始めていたのではなかったか。そして此の歌こそはその恋愛の最初の表現ではなかったであろうか。
されど用心きびしきことなれば中々忍び寄るだに覚束なく存候ところ、程経て次第に警備弛みて候得者そのゝちは心安くかの御許へ通ひ候、然者これは去年の秋より実に一年後のこと也、かの砌それがし書残し候通り絶えて異変なかりしかば老臣共漸く疑ひを晴らしたりと覚え候
だが、疑いを晴らした老臣共も、何故に曲者が殿様の鼻を狙ったのか、その理由だけは最後まで呑み込めなかったのである。
武州公秘話巻之五
図
河内介父の城に帰る事、並びに池鯉鮒家の息女と祝言の事
これより先河内介の父武蔵守輝国は、すでに老齢に達して体の工合が思わしくなく、朝夕薬餌に親しむようになったので、自分の息のあるうちに河内介に然るべく嫁を迎えて家督を譲ろうと思う心が切で