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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
此の老女は比較的身分が高いので皆の尊敬を集めていたらしく、厚い褥の上にすわって、脇息に肘をついて、二十人程の一団が輪を作っている中心のような位置に座を占めていた。
「法師丸さま、いくさの話がお聞きになりとうございますか」
と、そのとき別な年増の女房が尋ねたので、法師丸は
「うん」
と、首でうなずいてみせた。彼はそこにずらりと列んでいる婦女の一群の視線が、今の老女の言葉と共に一斉に自分の顔へ向けられつゝあるのを感じると、ちょっと訳の分らない恐怖、―――云わば異種族に取り巻かれた時の気おくれに似たものを覚えた。何を云うにも、男女の区別の厳重であった当時の武士階級のことである。まして此の少年は、幼時から両親の側を離れて武骨な侍の間に育ち、蘭麝の薫りなまめかしい奥御殿の生活と云うものを殆ど知らない。かりにも女らしい女が二十人と寄り集ったところに醸し出されるきら/\しい色彩と、嗅ぎ馴れない薫き物の匂とが、生れて始めて彼の眼の前に一箇の花園をひろげたのである。此の間から遠くの方で眺めてはいたけれども、こう近寄ってその雰囲気に包まれてみると、恐らく法師丸は、美しさや色っぽさを感じるより先に、不馴れから来る一種の嫌悪に襲われたのであろう、暫く黙って衝っ立っていたが、