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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

て滅亡を招かんよりは此方より攻入つて武勇の程を示さんには不レ如とて、去年の冬頃より内々人数を狩り催す云々」と。

按ずるに、牡鹿城没落の端緒が此の一向衆との争いに発したことは正史の記す通りであろう。しかし桔梗の方をそゝのかして則重を口説き落し、遂に檜垣の宗徒等と事を構えるようにさせた黒幕が、武州公であったろうことは略想像がつくのである。如何となれば、多聞山の城では此の少し前、永禄元年十月に武蔵守輝国が卒去したので、河内介は父の家督を継いで武蔵守輝勝を名告り、今やその勃々たる雄心に誰も掣肘を加える者がなく、自由に壮図を畫することが出来る時機に達していた。彼の最初の目標は、云う迄もなく牡鹿山に住む暗愚な君主―――手を拱いて滅亡を待っているばかりの、鼻と耳のない筑摩則重の上にあった。領土擴張慾に燃えつゝ虎視眈々と四隣の形勢を窺っている彼の前に、それは全く恰好な餌食であった。どうせ捨てゝ置けば誰かゞ手を出さずにはいないのであるから、そのくらいなら他国に先んじて一閑斎以来の城池を我が有とするのに、何の躊躇することがあろうぞ。―――だが、武州公を動かしたものは恐らくこう云う覇気ばかりではなかったであろう。