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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
何しろ彼の目撃したものは唯でさえ異常な場面である。そうして、その場面には鼻を衝くような異臭が充ち、そこにいた女共は皆生首と同じように黙々として一語も発しなかったのである。十三歳の少年が夜半に閨を忍び出て、青白い庭の月光を蹈んで、不意にそう云う奇妙な所へ連れて行かれたのであるから、―――而もそれが短時間のうちに終ったのであるから、―――全く現実とかけ離れた世界が、一瞬間ぱっと現れて忽ち又消えて亡くなったような感じがしたに違いない。
夜が明けると、相も変らず寄せ手の激しい攻撃が始まって、鉄炮の音、煙硝の匂、法螺貝、陣太鼓、鬨の声などが一日つゞいていた。そして人質の婦女の一隊は、その日も兵粮弾薬の運搬や、負傷者の介抱にかい/″\しく奔走していた。法師丸はその一隊の中から昨夜の女どもを捜し出して、あの屋根裏の光景が夢でなかったことを確かめてみようと思ったけれども、彼が特に魅惑された美女も、その他の四人の女共も、此の間じゅうは居たに違いないのだが、今日は一人も見かけないのであった。たゞ老女だけはいつもの通り脇息に靠れて部屋の片隅に坐ったまゝ、法師丸には朝からわざとよそ/\しい素振を示していた。