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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

但し、此の縁談が纏まったのは将軍家の口添えの結果であった。元来薬師寺の家と筑摩の家とは数年以来矛盾に及んで双方の間に合戦が止む時なく、殊に天文十八年には弾正政高が大軍を率いて牡鹿山の城を囲み、既に一閑斎に詰め腹を切らせようと云う所まで取り籠めたのであったが、略勢力の伯仲する両家が鎬を削って争っていたのでは世の中がいつも騒がしく、ひいては天下動乱の基にもなるので、弾正政高の病死したのを好機会に、室町殿の扱いがあって双方とも永年の意趣を水に流し、和睦のしるしとして婚儀が成立したのである。当時薬師寺の方は桔梗の方の兄淡路守政秀が家督を継いでいた。彼は父政高の病死が実は真の病死でなく、陣中に於いて何者かに斬り殺され、而も屍骸に忍ぶべからざる辱めを受けたことを知っていたので、心中筑摩家に対し釈然たらざるものがあったのだが、兎に角、表面は他意なき体に取りつくろい、将軍家の申し出でを有難くお受けした。一方筑摩家に於いては、輝勝一人を除く外政高の死の真相を知っていた者はないのであるから、淡路守の胸中を疑う筈はなく、家中一統心から今度の和睦と祝言とを喜んだに違いない。