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すいちゅうのきゅうでん

水中の宮殿

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页

青空文庫

尤もこんな釣竿では駄目ですがね、手網があれば捕れますよ」

釣好きらしいヘルメットの男は、そのまま水面の浮標の動きにじっと見入りました。まだ三十代でしょうが、日に焦けて渋紙色の皮膚、何となく知識的な物の言いようなど、兎に角、この辺には滅多にいそうもない不思議な人物です。

健一は何となく圧迫されたような心持で、礼を言って帰って来ると、綾子も燿子ももう起出して、お高さんを相手に昼の仕度をしております。

「お兄様、大変な人が来ましたよ」

健一の姿を見ると、燿子は飛出して来てそっと囁きました。

「何だ燿ちゃん」

「唐崎商事の社長と秘書よ、――その秘書というのが、仙台でまいた変なハイカラさんなの、一週間も前から、この辺をウロウロしているでしょう」

そのトンボ頭のハイカラなら、先刻変な釣の紳士が、堤防を壊したと教えてくれた曲者でしょう。どうかしたら、書生の花井を刺したのも、同じ人間だったかも知れません。

健一はむつかしい談判になりそうなのを覚悟して、小屋の中の居間とも客間ともつかぬ六畳の扉を押し開けました。

「や、君は翠川君、待っていましたぞ――御存じだろうが、私は唐崎荘之介、この平泉発掘事業の投資者だ、一緒に来たのは秘書の杉村三五郎君、どうぞ宜しく」