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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

うろたえた相手の顔が見えるようである。へまな人間をよこしたものだと、苦笑いをもらしたとき、そっちでぶつぶつ呟やくのが聞えた。

「おう痛え、擦り剥いちまった、ちきしょう、なんてえ家だ、どこもかしこもぎしぎし鳴りあがって、こんな陥し穴みてえなものまで有りあがって、――へっ、おまけにすっからかんで、どこになにがあるかわかりあしねえ、ちきしょう、まるで化物屋敷だ」

擦り剥いたところを縛るのだろう。手拭かなにか裂く音がした。こんどは人がいないものと信じたか、独りでしきりにぐちや不平をこぼしながら、暫らくそこらをごそごそやっていた。それからやがて襖をあけ、この寝所へとはいって来た。

ずんぐりと小柄の男だった。短かい半纏のようなものを着て、股引をはき、素足で、頬かぶりをしていた。もちろん武士ではないし、刺客などというものとも類の違う人間だ。

――とするとこれは、ことによると盗人というやつかもしれぬ。

そう思うと可笑くなって、成信はついくすくす笑いだした。相手はぎょっとしたらしい。こっちへふり返り、眼をすぼめて、そこに敷いてある夜具を眺め、その中に人間の寝ているのを見た。